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まちづくりシンポジウム(第2回)基調講演(1)

作成・発信部署:企画部 企画経営課

公開日:2005年4月6日 最終更新日:2009年3月31日

「安全安心のまちづくり」

  • 日時:平成16年8月1日(日)午後1時~3時30分
  • 会場:三鷹駅前コミュニティ・センター地下1階大会議室

出席者(敬称省略)

開催挨拶

清原慶子(三鷹市長)

基調講演

小宮信夫(立正大学文学部助教授)

司会

小林裕(三鷹市企画部調整担当部長)

○ 三鷹市企画部調整担当部長 小林裕

皆様、こんにちは。お暑い中、お集まり頂きましてありがとうございます。
本日は第2回まちづくりシンポジウム、テーマは「安全安心のまちづくり」ということで開催させて頂きます。現在三鷹市では基本計画の改定を進めておりまして、その中で大きな4つのテーマについてシンポジウムを開催し、それをさらにインターネットで市民の皆様にご覧頂き、ご意見を計画に反映していきたいと考えております。
本日はお手元の資料にございますとおり、前半が基調講演、後半がパネルディスカッションという形で進めさせて頂きたいと思いますので、よろしくお願い致します。
開会に先立ちまして、開催のご挨拶を市長の清原慶子より申し上げます。

○ 三鷹市長 清原慶子

皆様、こんにちは。三鷹市長の清原慶子でございます。大変お暑い中、しかも市内のあちらこちらで夏の行事が展開されております中、お時間を作って、この第2回目のまちづくりシンポジウムにご参加頂きまして、どうもありがとうございます。
先程、企画部調整担当部長の小林よりご説明を致しましたとおり、本年度は平成13年(2001年)に確定致しました、三鷹市基本計画の1回目の改定の時期でございます。
その時期にあたりまして、是非市民の皆様にも意見を出して頂きたい。そのための取り組みの1つとして、このまちづくりシンポジウムを企画したところでございます。
実は、平成13年に確定された「第3次三鷹市基本計画」につきましては、私はその時一人の市民としてメンバーでございましたが、全員公募の375名の市民によりまして、まず白紙からの市民参加ということで、市がそうした草案を作る前の市民による素案である「三鷹市民プラン21」というものの策定の取り組みがなされました。当時の市長と私を含む市民代表が協定書を取り交わしまして、そうした取り組みを致しました。
いわば今の基本計画には、しっかりと多くの市民の皆様の意見も反映されているということになります。
しかし、社会の変動の動きは活発でございます。例えば人口をめぐる変化、あるいは財政状況をめぐる変化などを、しっかりこの基本計画に基づきながらも見直すと共に、市民の皆様の生活の中から必要とされる新しい課題というものについての問題提起も受けながら、より望ましい市政のあり方を示す計画を作っていきたいと考えているわけでございます。昨年、実は私が市長になりましてから、大変市民の皆様の関心も強く、これからの取り組みの中で重視すべきテーマとして、「安全安心のまちづくり」が浮かび上がって参りました。三鷹市では、実はこのたび、三鷹警察署が警視庁から表彰された理由の大きな1つが、犯罪件数の減少であり、検挙率の確保であることからお分かりでありますように、市全体として犯罪の発生率は他の地域に比べて下がっております。けれども昨年10月24日に痛ましい強盗殺人事件がございまして、一人の方が思いがけないことで死亡という事件がありましたし、お一人の方は怪我を負われました。皆様と改めてご冥福をお祈り申し上げたいと思います。そうした大きな事件が起きまして、市としましては急遽昨年12月に、市の職員によります「安全安心パトロール」を開始致しました。そして全市的に町会・自治会等でもそうした取り組みの強化がみられました。
この4月1日に私は、生活環境部の中に「安全安心課」という新しい課を設置致しました。平成14年に実は池田小学校の事件をきっかけにしまして、三鷹市でも当時、安全安心の問題について大変重視されまして、「三鷹市生活安全条例」が制定されました。私が市長になりましてすぐに、この条例に基づく生活安全推進協議会の招集ということをさせて頂きまして、昨年5月ですが生活安全推進協議会の委員の方には市長として初めて辞令をお渡しするということがございました。除々に市の体制も、市民の皆様の思いも「安全安心」をさらに向上させるべきである、その為にはどうしたらよいかということが重大との共通認識になって参りました。
このことから、この4月に行いました基本計画の改定に向けての市民意向調査の中で、安全安心のまちづくりについて、市民の皆様のご意向を伺いましたところ、他の市の課題よりも多くの市民の方が重要であるということで、第一位でこの安全安心のまちづくりの必要性が市民の方から示されました。そのようなこともございまして、この基本計画の改定の中で重要なテーマとして、前回の第一回目は「地域ケアの推進」についてのまちづくりシンポジウムを催しました。二回目の今日は、「安全安心のまちづくり」というテーマを設定させて頂いたところでございます。
本日は基調講演に立正大学文学部助教授の小宮信夫先生にお願い致しました。小宮先生は幅広い観点から街の安全、防犯の取り組みについて研究をされていらっしゃいます。今年度、「地域の安全安心マップ作り」を三鷹市は予算としてお認め頂いておりますが、その実施にあたりましてご助言を頂いている専門家でもいらっしゃいます。
またパネルディスカッションでは、コーディネーターを東京大学工学部の小出治教授にお願い致しました。小出先生は実は、INS実験という1984~1986年に三鷹市内で行われましたそうした取り組みの際にも、例えば防災の観点から都市工学の専門家としてご助言を頂いたことがございます。全体としての安全なまちづくりについて、一貫して専攻され研究されてきた先生でいらっしゃいますので、コーディネーターをお願いしたところでございます。パネリストには三鷹防犯協会副会長の山本さん、市民代表として普通の市民感覚からご意見を頂くという主旨で、生活安全推進協議会の委員もして下さっている岡本さんにお願いをしました。また、常に子供から高齢者まで視野に入れながら、率先して三鷹のまちづくりにも参加をして頂いている、三鷹青年会議所理事長の中山さんにも、今の取り組みを中心に青年の立場からご意見を頂きたいと思います。あわせて市の生活環境部調整担当部長の玉木さんにも、市の取り組み等もふまえまして、パネリストとして参加をさせて頂くことに致しました。
今日のシンポジウムの様子は、8月中旬以降にはホームページで公開をさせて頂きまして、この場にご参加頂けなかった市民の皆様にも、意見を追加して頂きたいと思います。そしてさらにこの問題を深めたいということで、eシンポジウムの取り組みの一環にも加えさせて頂きます。今日の講演・パネルディスカッションの概要を紹介させて頂き、市民の皆様からの次なる意見の掘り下げに、このシンポジウムを活かしたいと考えておりますので、今日のご参加の皆様もどうぞご遠慮なく、そうしたeシンポジウムを通じてご意見を頂ければというように思っております。
私達の暮らす社会は常に留まることを知りません。色々な変化が私達の街には訪れます。人口構造、経済、あるいは私達を取り巻く意識の変化など、常に変動する社会の中で、私達が主として優先的に取り組むべき課題として、「安全安心のまちづくり」を取り上げておりますので、どうぞ市民の皆様の多様な視点から、このテーマについてご意見を頂き、掘り下げていく、そうした重要なきっかけのシンポジウムとさせて頂きたいと考えております。どうぞこのシンポジウムをきっかけに、今後も「安全安心のまちづくり」にご関心を持って、ご参画を頂きますようにお願い致します。
重ねて今日講演を引き受けて下さいました小宮先生、そしてパネリストの皆様にお礼を申し上げまして、市長からの開会のご挨拶と致します。どうぞよろしくお願い致します。

○ 小林氏

ありがとうございました。それではこのシンポジウム、まず基調講演からお願いしたいと思います。基調講演をお引き受け頂きましたのは、小宮信夫先生。立正大学文学部の助教授をされていらっしゃいます。専攻は犯罪社会学ということで、市長のご挨拶にもありましたとおり、市が策定を予定しております、生活安全マップの助言者もお務め頂いております。また、東京都の治安対策専門会議の委員、非行防止犯罪の被害防止教育の内容を考える委員会の委員、警察庁の少年非行防止法制に関する委員会の委員など、非常に多岐に渡る委員としてのご活動もされていらっしゃいます。今色々とマスコミでもご発言されておりますが、本日三鷹市でご講演頂くとい
うことでお引き受けを頂きました。それでは小宮先生、お願い致します。

○ 立正大学文学部助教授 小宮信夫

皆様、こんにちは。今日私に与えられたテーマは安全安心のまちづくりということで、どうすれば犯罪増加を食い止められるか、どうすれば地域の安全を守っていけるかというようなお話をさせて頂きます。
どうやって犯罪に強い三鷹を作るかという時に、私はそのヒントは欧米の犯罪対策にあると思っております。と申しますのは、今日本では全国的に犯罪が増加傾向にありますが、犯罪が日本で増加し始めた頃、ちょうど同じ頃に欧米では犯罪増加がストップしまして、増加から減少傾向に転じました。従って、そこで欧米では何かをしたはずなのです。それは一体何をしたのかということを探っていくことが、おそらく日本にとって大きな参考資料になるというように思っております。
一体何をしたかというのを探っていきますと、どうも発想の転換があったように思います。どのような発想の転換かと申しますと、「犯罪原因論」から「犯罪機会論」という大きな発想の転換があったように思います。欧米でも1970年代までは「犯罪原因論」に基づく犯罪対策が講じられてきました。1970年代後半~1980年代にかけて発想を変えまして、「犯罪機会論」に移ってきたわけです。では1970年代までは一体欧米では何をしてきたかというと、「犯罪原因論」というのは犯罪には原因があるだろう、従って犯罪の原因を一生懸命探す。探してつきとめたら、その犯罪の原因を失くす。
そうすれば社会は安全であるという発想であります。当たり前のことを話していると思われるかもしれませんが、日本ではまだ当たり前の発想ですが、欧米では当たり前ではなくなってきました。その場合、犯罪の原因といった場合に一番注目されるのが、犯罪者の人格です。犯罪者の異常な人格、あるいは犯罪傾向の進んだ性格。これこそが犯罪の原因であるというような発想であります。そうすると、どのような対策が出てくるかというと、まず犯罪者を捕まえて刑務所に送る。刑務所の中では、この犯罪者の人格を変える。少々言葉がきついかもしれませんが、人格を改造する。そして犯罪性が無くなった段階で、また社会に返してあげる。そうすれば社会は安全であるという発想です。ですから1970年代の欧米では、ものすごい金額の税金を刑務所や少年院に投入しまして、ものすごい数の専門的なスタッフを揃えて、来る日も来る日も人格改造のプログラムを実施しました。しかしそれらの試みはことごとく失敗しました。
犯罪増加を食い止めることは出来ませんでした。そこで欧米では、このような人格に注目する対策には限界があるというように考え直したのです。
日本は相変わらず犯罪原因論に浸かっておりまして、特に犯罪者の人格に注目する議論が多いのです。例えば事件が起きるとすぐに犯罪者を追いかけて、なぜ彼は犯罪をしたのかという話になる訳です。例えば大阪の池田小学校の事件の時には、人格障害という言葉が出ました。これが原因である。あるいは神戸の酒鬼薔薇事件の時には行為障害という言葉が出ました。これが犯罪の原因である。このような専門的な言葉が登場すると、一般の人たちは「ああ、そうか。これが原因なのか。」ということで、なんとなく分かった気になり、それで問題を終わらせてしまっている。しかしこのようなことをしている限りは、次の予防には繋がりません。
そもそもこの人格障害や行為障害というのは、アメリカの精神医学会がマニュアルを出しておりまして、そこにチェックリストがあります。そのチェックリストにいくつか該当すると、「あなたは人格障害です。」「あなたは行為障害です。」というように診断されます。私は大学の授業でこのチェックリストを大学生にさせるのですが、だいたい10人に1人か2人は行為障害というように診断されます。ですから、今日お集まりの皆様の何人かは、人格障害の方がいらっしゃるはずなのです。要するにそれくらいいい加減な概念で、曖昧、漠然としていて、一般の人が思っているほど確立した概念ではありません。しかし専門用語が出てしまうと、それが一人歩きしてしまうというところがあります。これが原因だと思ってしまうと、つまり人格障害だから犯罪をしたのだ、行為障害だから犯罪をしたのだというように思われがちなのですが、そもそもこの言葉自体そうではありません。人格障害だから、行為障害だから犯罪をしたのではなく、犯罪をしたから人格障害あるいは行為障害と診断されたに過ぎない。
マスコミが流しているような論理とは逆の事が本当なのです。犯罪をするような、そのような人格のことを人格障害や行為障害とよんでいるだけなのです。原因でもなんでもありません。本当に犯罪の原因を探したければ、一体なぜ彼は人格障害になったのか、なぜ彼は行為障害になったのか。ここを明らかにしなければならないのですが、それは今の私達の科学水準では分からないのです。分からないから、次から次へと「○○障害」という言葉を出しては、それでなんとなく問題を終わらせてしまっているというのが日本の現状でございます。
それからもう1つ、この人格と並んでよく日本の場合には取り上げられるのが、「犯罪者の境遇」です。学校が悪い、家庭が悪い、会社が悪いという発想です。「あの子はなぜ非行に走ったのか。あの家は母親のしつけがなっていないからだ。」、「あの家はなかなか父親が家に寄り付かない。だから犯罪をしたのだ。」、「あの子は学校でいじめにあっていた。だから犯罪をしたのだ。」、「なぜあの中高年は犯罪をしたのか。リストラされたからだ。」というような言い方です。本当にそうでしょうか。もしそれが本当にそうなら、日本人のほとんどは犯罪者になってしまいます。本当の犯罪の原因を発見したければ、いじめられても犯罪をする子、しない子がいますが、どこが違うのか。
母親のしつけがなっていなくても、犯罪をする子、しない子がいますが、どこが違っているのか。リストラされても犯罪する人、しない人がいますが、どこが違うのか。
そこを明らかにしなければならないのですが、それは今の私達の科学水準では分かりません。分からないから、いつも事件が起きてから振り返ってみると、「あの家はああだった、こうだった」といって、結果論で終わってしまっているというのが現状であります。
日本は相変わらずそうなのですが、欧米の場合には犯罪の原因は確かにある。あるけれども、それが一体何なのか。それを発見するのは非常に難しい。おそらく現代社会では1つ2つの原因ではないだろう。無数の複雑な原因があって、それから1つ2つ取り出すというのは難しいだろう。百歩譲って犯罪の原因が発見できても、それを失くすようなプログラムを開発するのはさらに難しいというように1980年代からは考え直しました。そこで発想を大きく変えて出てきたのが、「犯罪の機会論」です。これは犯罪の原因に注目するのではなく、犯罪の機会に注目するアプローチです。どんなに犯罪の原因があっても、どんなに犯罪をしようと思うそのような動機を持つ人がいたとしても、その人の前に犯罪を実行出来る機会がなければ、犯罪は絶対起こりません。欧米の対策は、ことごとく犯罪の機会を潰していく。犯罪者から犯罪の機会を奪う。これが「犯罪の機会論」です。欧米ではこの「犯罪機会論」に基づく様々な政策が講じられて、その結果ここにきて犯罪増加がぴたりと止まり、むしろ減少しているというような状況であります。
今言いましたように、「犯罪の機会論」は原因には注目しておりません。日本では犯罪対策や治安対策というと、すぐに一体原因は何なのかと、すぐに原因を突き止めるところにまずエネルギーを注ぐのです。家庭が問題だろう、学校だろう、地域社会だろうと言っているうちにエネルギーを使い果たしてしまって、何の具体的な対策も出ないままに終わってしまうというのがほとんどの場合です。しかし「犯罪の機会論」は、とりあえず原因はおいておきます。原因がわからなくても、犯罪を防げるのです。
犯罪者の心は直せなくても、犯罪は防げます。犯罪者の家庭環境を改善できなくても、犯罪は防げるのです。これが「犯罪の機会論」であります。
ではそこで、どうすればこの犯罪の機会を減らしていけるのかというと、犯罪に強い要素。これは3つあるのですが、この犯罪に強い3つの要素を強めれば強めるほど、犯罪の機会は減っていきます。まず一番に犯罪に強い要素というのは、「抵抗性」と呼んでおります。これは犯罪者が目の前に来た時、犯罪者が今から襲うぞという時に、その力を跳ね返す、押し返す。そのような力でございます。例えば皆さんがここにいて、犯罪者がそこに接近してくる。その時に皆さんが個人でもって、その犯罪者の力を押し返す。この力が抵抗性であります。色々な例がありますが、例えば玄関に1ドア2ロック。玄関の扉に鍵は1つではなく2つ付ける。そうすると、そこに忍び込もうと思って入ってきた犯罪者が「あれ、鍵が2つではないか。」ということで、ちょっと無理かと思って去って行ってしまう。このようなことを抵抗性といいます。あるいは、ひったくり防止のためにネットを自転車の前かごに付けておく。「さぁ、ひったくりをするぞ」と思って後ろからオートバイで近づくと、「なんだ、ネットでハンドバックが取れない」と、ネットが手を防いでいるわけです。ということで、そこはやめて行ってしまう。これも抵抗性ですね。子供に防犯ブザーを持たせる。「さぁ、子供を連れ去るぞ」という瞬間に防犯ブザーが目に入ったら、「あ、これを鳴らされる」と思ってその子に手を出さずに犯罪者は去っていく。これも抵抗性であります。しかし、そのようなハード面を、いくら揃えても、それを使う人間の防犯意識が低ければ、管理する意識が低ければ、抵抗性が高いとは言えません。例えばせっかく家の玄関扉を1ドア2ロックにしても、「ちょっと近所のコンビニに行くときは、いいや開けっ放しで」と思うと、そのような隙を狙っている犯罪者がいるかもしれません。ひったくりのネットもそうです。これは実際にあった話なのですが、ハンドバックをひったくられたと言って警察署に駆け込んできた女性がいました。その警察官が「この前お配りしたひったくりネットはどうしました?」と聞くと、「きちんと付けていました。」と言うのです。付けていたのに、なんでハンドバックが取られたのか。よく聞いてみると、そのハンドバックが防犯ネットの上に置いてあったのです。これでは取られます。これは実際にあった話です。それから防犯ブザーをせっかく持っていたとしても、カバンの奥の方にしまってあって、どこにあるか分からないというのでは、使い物になりません。やはりソフト面、人間の意識の面がなければ抵抗性が高いとは言えません。
これが犯罪に強い要素の1つめであります。ここまでは、今お話した例でお分かりのように、日本でも色々対策をしております。つまり犯罪原因論であっても、ここまでは出てくるのです。つまり犯罪原因論は、犯罪者の人格や犯罪者の境遇に注目していますから、常に犯罪者というのを想定しています。ですから犯罪者を想定すると、どうしても被害者、特に潜在的な被害者。つまり一般市民と犯罪者の状況というのは1対1を想定するのです。ですから、抵抗性というような対応策までは出てきます。しかし、残念ながらそこまでなのです。犯罪機会論に発想を転換すると、2番目と3番目の犯罪に強い要素が出てきます。
2番目は領域性。これは最初の抵抗性が1対1。個人で犯罪を防ぐとすれば、領域性はそのもっと手前の段階です。そもそも犯罪者を最終的なターゲットである人や家に近づけさせない。これが領域性です。この段階で犯罪者を押し返す。これが領域性です。つまり抵抗性が個人で守るのであれば、領域性は場所で守る、地域で守るということです。そもそも犯罪者をその地域の中に入れないということです。犯罪者はまず戦略的に地域を選びます。その後に戦術的に特定の人間・家を選びます。ですから、まず犯罪者に選ばれない地域になることが必要です。選ばれておいて、個人・個人で対策をしているのには限界があります。そもそも地域全体で守れば、その地域は犯罪者に狙われない。逆に一旦狙われたら、どんなに個人で防衛したと思っていても、ことごとくやられます。ですから、まずはその地域を犯罪に強くして、領域性を高める。
そもそも犯罪者を最終的なターゲットまで近づけさせないということが大事です。これをどうやって高めるかというと、まず物理的にきちんと区切ることです。境界をはっきりすることです。境界がなければ、犯罪者は簡単にその地域に入ってきます。
これは具体的に言いますと、先程の抵抗性の時に1ドア2ロック、扉に鍵を2つ付けましょうというお話をしましたが、もう少し外側の段階、つまり塀を作るわけです。
これが1つの領域性です。もう少し広げていきますと、例えば道路。ガードレールがあるところは、ガードレールの内側、つまり歩道側ではほとんど犯罪は起きません。
ひったくりも起きませんし、子供の連れ去りも起きません。なぜならば、ガードレールの内側というのは、この領域性で守られているからです。さらには、もう少し広い範囲で言うと、逆に領域性の低い、簡単に犯罪者に入られる場所というのは、幹線道路から生活道路に入れる道がたくさんあるところ。碁盤の目のようになっているような街並みのところ。そのようなどこからでも幹線道路から生活道路に入って来られるというようなところで、ひったくりも多発しますし、空き巣もそのようなところで多発します。なぜならば、そのような領域性の低いところ=入りやすいところというのは、犯罪者にとって逃げやすいわけです。確かに碁盤の目のようになっているところは、どこからでも幹線道路に出られるような街は、住民にとっては便利です。しかし住民にとって便利ということは、犯罪者にとっても便利なのです。欧米などでは、幹線道路から生活道路に入る出入口をどうやって領域性を高めているかというと、こぶ、ハンプを作って、そこの幹線道路から生活道路に入る直前には、車のスピードを落とさなくてはならないというような仕掛けをしております。そうすると、先程の話で犯罪者は戦略的にまず場所を選ぶために下見にくるわけです。その時に幹線道路から一角に入ろうとした時にこぶ、ハンプを見て、「あ、駄目だ」と思うわけです。この地域のどこかに空き巣に入って、「泥棒!」と言われ猛スピードで逃げようとした時、その一角から出る時にスピードを落とさなくてはならない。そんなリスクを犯してまで、その地域では犯罪をしようとはしません。このようなことを領域性と呼んでいるわけです。

まちづくりシンポジウム(第2回)基調講演(2)へ続く

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