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ケラ(螻蛄)
作成・発信部署:都市整備部 緑と公園課
公開日:2009年2月16日 最終更新日:2023年1月5日
【連載第18回】土の中から聞こえる謎の声
啓蟄(けいちつ)を過ぎ、4月の声を聞くとさまざまな昆虫が活動を始めます。夜、野原や畑などの柔らかい土の中から、ケラの「ビー」という声が聞こえ始めるのも4月初旬からです。独特の鳴き声は、日本では古来「ミミズの鳴き声」と信じられていたそうです。ケラは体長3cmほどのコオロギの仲間ですが、オスには前羽の羽脈に鳴くための発音器官があり、地中の巣穴を共鳴室として使うことで鳴き声を大きく響かせます。メスも小さい音を発音できるそうです(写真の個体は羽が短いメスと思われます)。
おけら(ケラの俗称)は「手のひらを太陽に」という歌の中に出てくるなどおなじみですが、実際にどんな虫なのか見たことがある人は少ないのではないでしょうか。この写真も、農家の方に頼んで捕まえていただき、撮影しました。
ほかのコオロギの仲間と比べて触覚や脚が短いのは、地中生活に適応していることからでしょう。その代わりに前脚は太く頑丈に発達し、かつ数本の突起があって、ちょうど同じ地中生活者であるモグラの前脚のような形をしています。この前脚で土をかき分けて土中を進みます。手で捕えると、前脚で指の間をかき分けて逃げようとします。頭部と胸部がよくまとまって流線型の先端を構成すること、全身が筒状にまとまっていること、体表面にビロード状の細かい毛が密生し、汚れが付きにくくなっていることなどもモグラと共通する特徴です。モグラはほ乳類ですから昆虫のケラとは全く別の動物ですが、前脚の形が両者で似ていることはよく知られ、生物進化の仕組みを探るうえでも重要な例となっています。
柔らかい土中に作られる巣穴は、ねぐらとして深く掘られた縦穴と、そこから伸び、地表直下の餌を探す横穴からなるそうです。成虫・幼虫ともに食性は雑食性で、植物の根や種子、ほかの小昆虫やミミズなどさまざまな動植物を食べます。また、このように地中生活ばかりしているわけではなく、長く発達した後羽を広げてよく飛び、夜、灯火に飛来することもあるそうです。
畑土を耕起している横には、土の中から出てくる虫を食べにムクドリやハクセキレイなどが集まっていますが、地中から飛び出すケラなどを食べているのでしょう。ケラは野鳥が好んで食べることから、江戸時代は江戸城大奥で愛玩用に飼育されている小鳥の餌として、江戸近郊の農村に採集と納入が課せられていたそうです。
- 参考文献
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- ニューワイド学研の図鑑 昆虫 学研
- 府中の昆虫ガイドブック 府中市