ここから本文です

第39回太宰治賞贈呈式を行いました

作成・発信部署:スポーツと文化部 芸術文化課

公開日:2023年6月19日 最終更新日:2023年7月10日

画像:受賞者のにしむらりょうさんを囲んで記念写真(拡大画像へのリンク)

受賞者の西村亨さん(前列中央)を囲んで記念写真

(画像クリックで拡大 45KB)

受賞者は西村 亨(にしむら・りょう)さん

令和5年6月16日(金曜日)、三鷹市と株式会社筑摩書房が共催する第39回太宰治賞の贈呈式を、如水会館 (千代田区)で開催しました。

会場では、出版関係者や報道陣を前に、受賞作「自分以外全員他人」の作者、西村亨(にしむら・りょう)さんに、株式会社筑摩書房 喜入冬子代表取締役社長から表彰状を授与し、河村孝三鷹市長から正賞(記念品)と副賞(100万円)を贈呈しました。

選考委員を代表して津村 記久子さんによる選評のお言葉

 「(最終候補)四作品どれも面白かったのですが、この作品はそれに加え抜群に共感したなというのが自分の中でありました。審査委員の皆さんそれぞれにその小説に対して、とてもよくわかるという部分がそれぞれあったんですね。違う形であったというのはすごく驚いたし面白いなと思いました。

 個人的に…秀逸だなと思った部分が、主人公と母親の距離感ですね。作品の中での主人公と母親の関係って暴力とか虐待みたいな目に見えるものではないけれども誰かの子であるということの普遍的な拭い去れない苦しみみたいなものがあったんじゃないかなっていうふうに思います」

受賞した西村 亨さんのご挨拶

 「このたびは、私の小説を受賞作に選んでいただき、誠にありがとうございます。そしてこのような素晴らしい場にお招きいただいたこと、重ねてお礼申し上げます。 

 今年の三月の初めごろまで、春になったら自転車で旅に出て、どこか適当な場所で野垂れ死のうと本気で考えていたので、今ここにこうして立っているのが、とても不思議な気持ちです。

 昔からずっと、早く死にたいと思いながら生きて来たんですけど、最終候補に残っているという連絡をいただいてから、ゲラをもらい修正作業をしているあいだ、毎日がとても充実していて、こういう時間をもっとたくさん味わえたら、生きるのもそんなに悪くないんだろうなと考えているうちに、いつのまにか、死ぬ気も、労働意欲も完全に失ってしまっていたので、今回受賞させていただくことができて本当に良かったです。

 受賞前は、もし受賞できたら、きっといつになくテンションが上がるんだろうなと思っていたんですけど、いざ受賞の知らせを受けた時は、喜びよりも安堵の方が強くて、嬉しいというより、助かった、という思いでした。なんとか命拾いした、という感じで。家族や友達や知り合いに報告して、祝福されても、あまりピンとこなくて。一度本気で自殺を考えたから、自分はおかしくなったんだろうか、心が不感症になったんだろうかと思っていたんですけど、次の日、三鷹市さんのホームページに載っていた、選考委員の先生方のコメントを目にした時、初めて素直に嬉しいと感じることができました。こんなダメ人間のみっともない話、きっと酷評されるに違いないとビクビクしていたので、自分の拙い文章を読んでいただいたうえ、好意的な感想までいただけたことがとてもありがたかったです。中でも津村記久子先生の「多くの人が共感し、救われるのではないかと感じた」という言葉には、ぐっとこみ上げるものがありました。私も小説に救われて生きて来た人間なので、そうなってくれたらとても嬉しいです。

 18歳の頃に、初めて人間失格を読んだ時の衝撃は、今でもはっきりと覚えています。それまでずっと隠してきた自分の秘密を暴かれたような、恥ずかしさと恐怖と、でもどこか慰められるような、初めて自分と同じ人間に会えたような、お前は一人じゃないんだと励まされているような気持ちがしました。それが無かったら、僕はいまだに自分の本当の気持ちを隠したまま、偽りの人生を送っていたように思います。

 太宰治という人が、その昔、自分の恥をさらけ出してくれたから、今の自分はあるんだと思います。人と上手く関われなくても、世間に受け入れられなくても、一人じゃないんだという思いが、自分をここまで歩かせてくれました。

 これは別に気取った比喩というわけではなくて実際に、アイホンのボイスレコーダーに自分で朗読して吹き込んだ人間失格を聴きながら、なんとか外を歩いていたという時期もありました。しかも十代とか二十代の若い頃の話じゃなくて、四十過ぎてからの話で、それくらい、いくつになっても生きるのが下手で、何も上手く出来なくて、でもだからこそ、誰かのみっともない恥が、誰かの心の支えになることがあることを、身をもって知っているつもりでもあります。その気持ちを忘れずに、これからも書いていきたいです。

 今まで死ぬほど恥をかいてきて、それこそもう少しで本当に死ぬところだったので、ギリギリのところで救われたこの恥の多い人生の、あまり多くはない残りの時間を、願わくは、これから、誰かの慰めや救いのために使っていくことができたら、こんなに嬉しいことはないです。

 本日は本当にありがとうございました」

『太宰治賞2023』

受賞作及び最終候補3作品と選考委員の選評などを収録した『太宰治賞2023』は、株式会社筑摩書房から発売しています。

受賞作『自分以外全員他人』あらすじ

あと1年半、あと1年半待てば俺は自殺できる――。マッサージ業界でフリーランスとして働く柳田譲。不安定な日々を過ごし、生きる支えも希望もなく、45歳が限界だと思っていた男は自らに死亡保険をかけ、自殺でも保険金が下りるようになる日を待っていた。人とうまく関係を築くことができず、母とも母の再婚相手とも分かり合うことはないまま家を出て、職場の同僚や客ともおおよそ心地の良い会話はできない。鬱で退職した元同僚の真似をして始めたサイクリングだけが唯一の心のよりどころだったが、逆走する自転車や幅寄せしてくる車を見かけるたびに腹を立て、気が狂いそうになるのを必死で抑える日々。極めつけは入居しているマンションの駐輪場での置き場所トラブル。自分の魂そのものになった自転車を屋根付きの駐輪場に止めたい、それだけだったのに、自分はなにも悪いことをしていないはずなのに。日常が怒りに染まっていく中年の破滅の物語。

第39回 太宰治賞 最終候補作品

  • 北野 解 「コスメティック・エディション」
  • 西井 貴恒 「魚の名前は0120」
  • 村雲 菜月 「肖像のすみか」
  • 西村 亨 「自分以外全員他人」
太宰治賞とは
昭和39年に筑摩書房が創設した小説の公募新人賞で、吉村昭をはじめ、加賀乙彦、金井美恵子、宮尾登美子、宮本輝など多くの著名作家を世に輩出してきました。昭和53年の第14回を最後に中断していましたが、三鷹ゆかりの文人たちの文化の薫りを継承したいと考えていた三鷹市が、三鷹になじみの深い太宰治の没後50年(平成10年)を機に、筑摩書房に呼び掛け、共同主催の形で復活しました。
その後も、芥川賞を受賞した津村記久子さん、今村夏子さん、大江健三郎賞を受賞した岩城けいさんなど、有望な若手作家を輩出しています。
画像:副賞目録を手に記念撮影(拡大画像へのリンク)

副賞目録を手に記念撮影

(画像クリックで拡大 43KB)

このページの作成・発信部署

スポーツと文化部 芸術文化課
〒181-8555 東京都三鷹市野崎一丁目1番1号
電話:0422-29-9861 
ファクス:0422-29-9040

芸術文化課のページへ

ご意見・お問い合わせはこちらから

あなたが審査員!

質問:このページの情報は役に立ちましたか?

  • 住所・電話番号などの個人情報は記入しないでください。
  • この記入欄からいただいたご意見には回答できません。
  • 回答が必要な内容はご意見・お問い合わせからお願いします。

集計結果を見る

ページトップに戻る