水車と民具

調査の前に

調査風景の写真峯岸家の水車は、これまでにも、その優れた機構が注目されて、産業考古学の面などからは専門的な調査がなされています。しかし民具類の本格的な調査は行われていませんでした。水車経営を中心とする農家の暮らしぶりを知るために、水車周辺の民具のあり方を調べておくことは、とても重要な意味を持ってくると思われます。

調査風景の写真峯岸家には母屋と水車小屋のほか土蔵や物置などの付属建物もよく残されており、水車関係の道具をはじめ、農具類などの生産に関わる民具の保存状態も良いことが分かりました。しかも、それらの多くは、ご当主自身が使ってきたものであり、使わなくなったものも、少年時代から見守ってきたものなのです。今ならば、それらの民具にまつわるいろいろなお話を聞くことができます。民具の保存環境が良く、民具それ自体も良く残り、おまけに、これらを使ってきたご本人の伝承も聞けるという「三拍子」そろった民具調査は、なかなか望めません。そこで、平成14(2002)年夏、武蔵野美術大学の博物館学芸員課程の学生たちとともに、条件の整っているうちに、残されている民具を整理し、概況を確認して、本格的な調査をしようということになったのです。

まだ、残暑きびしい夏休みの終わりの10日間ほど、水車小屋や農具倉庫などから埃まみれになって民具を1点ずつ引っ張り出しチェックをしました。その数は500点余り。まだまだ水車小屋の屋根裏、製粉作業場、母屋台所などに未確認のものが残されていますが、この観察で分かったことと、特徴のある民具などを少しずつ紹介してみましょう。

武蔵野美術大学教授 神野善治