広報みたか2026年1月1日2面
■2026新春対談「伝統芸能の奥深さを市民に」
名誉都民の受賞は三鷹市の誇り
両川 私は牟礼に住んで、もう33年になります。公演に合わせて旅に出るものですから、家を留守にすることも多く、海外公演のときは1カ月、国内では3カ月にもなるんですね。子どもたちがまだ小さかった頃、ご近所の方々が優しく接してくれたので、すごく助かりました。三鷹はとても環境が良いですね。
河村 私は2024年10月に、両川さんが名誉都民に選ばれたときに初めて、三鷹市民であることを知りました。市民の皆さんにとって、三鷹にゆかりのある方の活躍はうれしいものです。なので、三鷹市スポーツと文化財団設立30周年記念式典でも、「記念公演をしていただく結城座の両川さんは三鷹にお住まいです」とご紹介しました。名誉都民で、三鷹市民でもある両川さんの公演ということで、皆さんとても関心を持って見てくださったように思います。
両川 ありがたいことです。結城座も私も宣伝が下手ですから。
河村 いやいや、宣伝が下手っていうことはないですよ。両川さんの活動を評価される方が多いからこそ、選ばれたのだと思います。
両川 名誉都民の話は私にとっては寝耳に水で、「どうして私が?」という感じだったのですが、俳優の仲代達矢さんも選ばれていて、数十年ぶりに再会できたことが本当にうれしかった。30代の頃に仲代さんと一緒に仕事をさせていただいたことがあるんです。
河村 仲代さんは昨年11月に亡くなられる数カ月前まで、舞台で主演を務めていたそうですね。芸に生きる人のすごみとでもいうのでしょうか。それは、両川さんも同じであるように思います。名誉都民は本当にかけがえのない称号であり、三鷹市にとっても誇りです。最近は、歌舞伎を題材にした映画『国宝』のヒットもあって、伝統芸能を追求する素晴らしさが再評価されています。その追求を続ける両川さんは、今後もさらに実績を重ねていかれることでしょう。
古典の世界を人形の動きで具体的に表現
河村 30周年記念公演は、幕あいで物語の解説をしてくださったので、古典に詳しくなくても楽しく見ることができました。
両川 私たちは伝統芸能に耳が慣れているから、長唄でも義太夫(ぎだゆう)でも、内容を理解できます。でも、現代の方に伝わるような工夫も必要です。結城座でも若い劇団員は時間をかけて、次第に理解できるようになっていきます。
河村 昔の言葉が分からなくても、どの演者の芸も素晴らしいとすぐに感じました。
両川 細かい技を極めていくと、プロの間では「いい!」と評価されますが、素人の方には分かりづらくなってしまうんです。なるべくそうならないように、私たち人形遣いは、人形の動きで古典の世界を具体的に表現することを心掛けています。
河村 人形が役者のように動くから、面白いし、分かりやすい。
両川 そう思ってくださる方が増えると、私たちも表現の場が増えていくと思います。父、十代目結城孫三郎の時代は、NHKと専属契約を結ぶほど江戸糸あやつり人形の需要がありましたが、父は根っからの芸人なので、「テレビはもうやめよう」となってしまいまして。一度はご縁が切れてしまいましたが、近年はまたお声が掛かり、昨年の大河ドラマ『べらぼう』に何度か出演させていただきました。
伝統芸能に触れる機会を市民に提供したい
両川 結城座は三鷹市芸術文化センターが開館した30年前にも公演をしたのですが、星のホールでは、若い演劇人に舞台を提供する取り組みをされていますね。
河村 「MITAKA “Next” Selection (ミタカ・ネクスト・セレクション)」ですね。今年で27年目になります。脚本、演出、構成力に優れる若い劇団を選び、公演を開催しています。
両川 あれはなかなかできないことなので、ぜひ続けてほしいです。意欲のある若い劇団のすべてが売れるわけではありません。私が知っている若い演劇人たちも「発表の場がない」と嘆いています。芝居仲間として、この取り組みは本当にありがたいと思います。
河村 芝居や伝統芸能などの舞台は、演じる人、裏方として支える人、そして観客の三者がいて初めて成り立つ世界です。プロはもちろんのこと、アマチュアでも、この三つの側面をきちんと考えていく必要があるでしょう。両川さんは「人形劇実験室」と題して、江戸糸あやつり人形の連続講座をされていますね。人形劇って、子どもの人形遊びのイメージがあるから、とても面白くて入りやすいと思います。
両川 そうだといいですね。アマチュアの方々と一緒にやりたいことはたくさんあります。今、小金井市に稽古場があるんですけど、活動の場をもっと広げていきたい。講座を行う場所を増やしてもいいかなと思っています。
河村 三鷹市でやりませんか。
両川 ありがとうございます。もう、すぐに飛びつきますよ(笑)。「日本にはこんな人形劇もあるんだ!」と多くの方が関心を持ってくれるといいですね。
河村 江戸糸あやつり人形は、歌舞伎や浄瑠璃と地続きの世界だし、人形の後ろで長唄や三味線を演奏する演目もあり、日本の伝統芸能の奥深さにつながっています。結城座に触れることは、伝統芸能へのとても良い入り口になると思います。
両川 私たちが養成塾をやるときは、能、舞踊、義太夫だけでなく、オペラやコンテンポラリーダンスも織り交ぜています。多面的に芸能を学びたい方には楽しんでもらっています。
河村 人形劇を中心に、さまざまな可能性を追求したい人にはうってつけですね。教育の場としては、三鷹市では「みたかジュニア・オーケストラ」の活動を継続してきましたから、子どもたちがクラシック音楽を楽しみ、学ぶ場はあります。その伝統芸能版があっても面白いですね。
両川 そうなると楽しいですね。私はとりあえずどんな芸能でも自分で体験してきたので芸の「食わず嫌い」はなかった。戦後、劇場が全部つぶれたときに、辛うじて残った落語の寄席で、文楽さんや圓生(えんしょう)さん、志(し)ん生(しょう)さんを毎日のように見たり聞いたりしてね。これは本当に役に立ちました。今の若い人にも日本の伝統芸能を知ってもらい、そのうえで自分にとって必要かどうかを判断してもらえるといい。古典でも、ポップなものや、現代に通じる感覚のものはたくさんあると思います。
河村 古典の物語は、さまざまな表現の中に生きているので、皆さんがどこかで見聞きしたことがある話も多いと思います。
両川 その点、三鷹市は文化の源です。例えば、太宰治が書いた作品で、子ども向けの芝居だって作れるんですよ。
河村 中学校の国語の教科書には『走れメロス』が載っていますね。
両川 『走れメロス』は昔、NHKの番組の人形劇でやりましたよ。いやぁ、人形を走らせるのは大変でした(笑)。太宰治にしても、山本有三にしても、三鷹市ゆかりの作家にはさまざまな小説があるし、大切なのはそれをいかに今様(いまよう)に発信できるかです。三鷹は文化が根付いているまちだから、その可能性が想像以上にあると思います。
「良いものは必ず続く」と信じ、後進を育てる
河村 今年の抱負をお聞かせください。
両川 私の願いは、若い世代の人形遣いたちが育ってくれることです。私一人じゃ舞台は成り立たない。結城座の若い人たちは、みんな一生懸命にやっています。大切なのは「良いものは必ず続くんだ」と信じることです。だから、「ごまかしのない舞台」を続けていきたい。わがままですけどね。
河村 芸能の世界で表現の極みを追求されている方は、わがままでいいのだと思います。こだわりの姿勢がないと、優れた芸術作品は生まれません。両川さんの表現に感銘を受けて、後進が続いていく。その試行錯誤の過程が大切だと思います。今日、両川さんとお話していて、三鷹市とこれから何かコラボレーションできたら面白いと感じました。
両川 うれしいですね。市民の皆さんが少しでも伝統芸能に目を向けてくれると、その世界で生きている人間にはとても励みになりますので、よろしくお願いします。
河村 ぜひ、よろしくお願いします。そして、健康で長く続けてください。
両川 船遊 さん Senyu Ryoukawa
江戸糸あやつり人形結城座十代目結城孫三郎の次男として生まれ、4歳で初舞台を踏む。11歳から歌舞伎、狂言も学びながら、結城座で人形遣いを修行。1972年、写し絵家元三代目両川船遊を襲名。人形遣いとともに写し絵師の活動も開始。1993年、十二代目結城孫三郎を襲名。2021年に結城孫三郎の名を息子に譲り、三代目両川船遊の名前に戻り活動を続ける。新しい作家や演出家との作品づくり、海外公演にも積極的に取り組むとともに、古典の伝承と若手の育成にも力を注いでいる。2024年、名誉都民に選出。
市外局番「0422」は省略。 【主】主催者 【日】日時・期間 【人】対象・定員 【所】場所・会場 【講】講師 【¥】費用(記載のないものは無料) 【物】持ち物 【申】申込方法 【問】問い合わせ 【保育】保育あり 【手話】手話(要約筆記)あり
