広報みたか2023年1月1日4面
■新春対談「開かれた国立天文台と共に歩む次の100年」
市内の大沢地区には、日本の天文学の中核を担う研究機関「国立天文台」があります。都心から三鷹に天文台が移転したのは大正13(1924)年で、来年は100周年を迎えます。市は国立天文台との協働で、天文学への興味・関心を高めるためのさまざまな取り組みを行ってきました。令和5年の新春対談では、常田佐久台長と河村孝市長が「天文台のあるまち三鷹」のこれまでを振り返るとともに、今後のまちづくりについて語り合いました。
2023年新春対談
国立天文台長 常田 佐久さん × 河村 孝市長
三鷹の豊かな環境で太陽の研究を続けた40年
河村 常田台長は太陽の研究をご専門とされていますが、何がきっかけでしたか。
常田 子どもの頃から「地球外に生命がいるのだろうか」と漠然と考えて、天体望遠鏡で星の観察をしていました。大学で天文学を専攻した際、夜空の星を観測するためには、解像度が高く鮮明に見える大型の望遠鏡が必要でしたが、当時の日本では作れませんでした。太陽は明るくて、解像度だけ上げれば比較的小さな装置でも最先端の研究ができるので、「これはいい」と思って太陽を研究し始めました。
河村 三鷹の国立天文台には、いつ頃から来るようになったのですか。
常田 大学院の頃からです。学内には観測設備がなく、三鷹に通うようになったのが22歳のときで、以来40年間です。自宅よりも三鷹にいる時間の方が長かったので、ほとんど三鷹市民です。若い頃は野川公園をジョギングしていました。天文台周辺は40年あまり変わらないものがありますね。本当に素晴らしい環境だと思います。
澄み切った空を回復してにぎわう街との二刀流で
河村 昨年の10月22日と23日には、環境省と東京都などが主催する「星空の街・あおぞらの街」全国大会を三鷹市で開催できました。国立天文台のご協力があってこそ実現したイベントです。ありがとうございました。
常田 高円宮妃殿下にご臨席賜り、天文台の施設もご高覧いただきました。曇り空が急に晴れて、木星や土星などをリアルに観測していただけて本当に良かったです。
河村 今の三鷹市は星空も青空も澄み渡っているわけではありませんが、今回、全国大会の開催地を引き受けたのには、「澄み切った空を回復すること」を旗印にしたいという思いがありました。50年前、東京の海や川は公害によって汚染されていましたが、その後の50年間で相当きれいになりました。やる気になれば、空もきれいにできるはずです。将来的に、三鷹は街のにぎわいと澄み切った空の二刀流でいけたらと思っています。
常田 都市部で青空や夜空をきれいにするには、何かを犠牲にしなければならないと思われがちです。でも、それは本意ではありません。活気ある産業や快適な市民生活を維持しながらでも、星空に代表される環境全般を良くしていけるはずです。今回の全国大会は、三鷹市がこれまで目指してきた方向性が改めて評価された証しでしょう。
河村 国立天文台が都心から三鷹の地に移って、まもなく100年になります。今回の大会では「100年後の地球─今、私たちにできること」をテーマに掲げました。ちょうどこの数年が大切な折り返し点になって、これからの100年で三鷹は必ず星降る街になっていく。
常田 そして、国立天文台も三鷹の土地にあり続けていきます。
国立天文台は情報化・国際化・平和のシンボル
河村 国立天文台はここで観測するだけでなく、世界とつながっているとお聞きしました。
常田 ハワイの「すばる望遠鏡」や、チリの「アルマ望遠鏡」など、日本の先端技術を駆使した施設を海外に持っています。どちらも天体観測に適した世界有数の場所です。すばる望遠鏡ではリモート観測が可能で、近々、大量の観測データが素早く三鷹に送られるようになる予定です。
河村 すごい技術ですね。国立天文台は三鷹市にとって、まさに高度な情報化のシンボルです。
常田 そう言っていただけると、我々が普段当たり前に思っている研究や施設をとても新鮮に感じられます。
河村 東京オリンピック・パラリンピックではアルマ望遠鏡のご縁で、三鷹市がチリのパラリンピック選手のキャンプ地になりました。国立天文台は、海外との交流を深める国際化のシンボルでもあります。
常田 アルマ望遠鏡は、チリでは知らない人はいないほど有名だそうです。現地での研究活動がパラリンピックでの協力につながったのは、うれしいことです。
河村 こうした活動を維持・発展していけるのは平和だからこそだと思います。ですから国立天文台は平和のシンボルでもありますね。
常田 研究活動をきっかけとしたさまざまな交流や協力関係の基本に平和がある、という考えには非常に共感します。
市民参加の天文イベントは世界を先取りする活動
河村 一方で、国立天文台の高度な研究は、私を含め専門家ではない人にとっては遠いものというイメージがあるのも事実です。しかし、天文は古くから人々の生活の中に入り込んでいるものです。天文研究と市民の関心をつなぐ方法がきっとあるはずだと思い、市では天文台の皆さんのご協力もあって、さまざまな事業を行ってきました。その一つが「みたか太陽系ウォーク」です。三鷹市全体を13億分の1の太陽系として、三鷹駅に太陽を置いて街歩きをするスタンプラリーですが、開催すると1日でスタンプを集めてしまうほど熱心な参加者もいます。
常田 あれは良いアイデアですね。国立天文台の敷地にある「星と森と絵本の家」にも多くの方が訪れています。
河村 天文台の森にある大正時代の官舎を保存して、絵本や自然、科学への関心を育む場所として活用しています。実は、宇宙と絵本の世界はつながっているのではないでしょうか。子どもたちの夢や空想の世界が、科学という枠組みの世界にある天文学と結び付くことで、面白い効果が生まれていると思います。
常田 そうした取り組みはとても大切です。国立天文台は世界でも最先端の観測装置で研究成果を出していますが、研究内容を市民に知ってもらうことも重要です。最近、天文学の在り方についての考えが急速に変化していて、アメリカ政府の文書には「市民天文学」という言葉が頻繁に出てきます。研究施設が一方的に情報を出すのではなく、市民との交流を図ることが重要なのです。そういう意味で、三鷹市の取り組みはアメリカを10年ぐらい先取りしていると思います。
河村 私たちは、研究者の方々から教わったことを咀嚼して、企画を立てているだけです。
常田 その咀嚼をしたところがすごい。先ほど、河村市長は「宇宙と絵本の世界はつながっている」と、哲学的な表現をされました。絵本は子どもたちの言葉にならない思いを表現してくれます。その気持ちを解き明かすことが科学へと進展していくのです。三鷹市の取り組みが世界の動き、そして学問と市民のあるべき関係を先取りしていることは確かだと思います。
子どもや市民に開かれた国立天文台を目指して
河村 三鷹市では今、天文台周辺地域の新たなまちづくりを進めています。天文台の森の中に小学校を移転させることも検討していますが、緑を保全しながら活用しつつ、子どもたちが観測設備を見たり、研究者の先生方に教えていただく機会を設けたりすることができたら、成長により良い影響を及ぼすはずです。例えば、モデル校の取り組みを一緒に考えるところからご協力いただけたらありがたいです。
常田 三鷹市の構想には全面的に協力したいと思います。「開かれた国立天文台」として、子どもたちや市民が来られる施設があり、研究者もドアを開き、交流を通じて相互作用する。これが先駆的な動きとなって広まっていけば、さらに良いことだと思います。前人未到の取り組みですね。ぜひ、進めていきましょう。
河村 よろしくお願いします。本日はありがとうございました。
河村孝市長 Takashi Kawamura
1954年、静岡県静岡市生まれ。1977年、早稲田大学卒業後、三鷹市に就職。企画部長として、都立井の頭恩賜公園への三鷹の森ジブリ美術館の誘致を実現。2003年から3期12年にわたり助役・副市長として市政を支える。(株)まちづくり三鷹代表取締役会長、(公財)三鷹市芸術文化振興財団理事長、(公財)三鷹国際交流協会理事長などを歴任し、2019年4月に第7代三鷹市長に就任(現在1期目)。「天文台の森」を次世代につなぐ、学校を核とした新たな地域づくりを、地域、国立天文台との協働で進める。
常田佐久さん Saku Tsuneta
国立天文台長、理学博士。1954年東京都文京区生まれ。1983年東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了。東京大学東京天文台助手、東京大学理学部天文学教育研究センター助手、助教授を経て、1996年より国立天文台教授。太陽観測衛星「ようこう」「ひので」などの開発、打ち上げに携わる。2010年に天文学で優れた業績を挙げた人物に贈られる林忠四郎賞を受賞、2019年には日本学士院賞を受賞。国立天文台教授、同先端技術センター長、その後、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所長を経て、2018年4月より現職。
市外局番「0422」は省略。 【主】主催者 【日】日時・期間 【人】対象・定員 【所】場所・会場 【講】講師 【¥】費用 【物】持ち物 【申】申込方法 【問】問い合わせ 【保育】保育あり 【手話】手話・要約筆記あり