緑と水の公園都市 三鷹市
このページは広報みたかのバックナンバーです。 応募・募集・申込期限が終了している場合がありますのでご注意ください。

広報みたか2020年1月1日4面

■新春対談「地域で文化に親しみ、人を育てる“三鷹スタイル”の浸透を」

 三鷹市の文化活動の中心的な施設である三鷹市芸術文化センターは今年で開館25周年を迎えます。ここを拠点に活動するオーケストラ、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニアの音楽監督を務めるのは日本を代表する指揮者、沼尻竜典さんです。かねてから交流のある河村孝市長が、三鷹市で生まれ育った沼尻さんに、幼少期の思い出や音楽との出会い、そして、三鷹市が育んできた文化活動の独自性についてお聞きしました。

2020年 新春対談
指揮者沼尻 竜典さん × 河村 孝市長

地域で音楽を体験した幼少期
河村 沼尻さんは三鷹市の小・中学校で学ばれたとのことですが、どちらにお住まいでしたか。

沼尻 昭和40年代から50年代にかけて、三鷹台団地に住んでいました。

河村 団地は当時、最新の住まいでしたね。

沼尻 昭和30年代後半に建てられた団地で、水洗トイレ、システムキッチン、そしてお風呂がありました。銭湯が繁盛していた時代ですから、家にお風呂があるのは庶民の憧れでした。学校も近くて便利でしたよ。当時は子どもが多くて、近所の公園でよく遊びました。通っていた幼稚園には広い畑があったので、みんなで芋掘りをしたのを覚えています。

河村 ピアノはいつから始められたのですか。

沼尻 3歳のときです。両親が会社のコーラス部に入っていて、そこで使っていたピアノを買い替えるときに、安く払い下げてもらったんです。

河村 音楽のプロを目指す方は、相当厳しい練習をされると聞きますが、音のことでご近所は大丈夫だったんですか。

沼尻 何とか大丈夫でした。それに私の場合、ちゃんと練習したのは音楽高校に入学する直前ぐらいでしたから。

河村 でも、沼尻さんの同窓生にお会いすると、小・中学校での伝説をお聞きしますよ。音楽の先生に代わってピアノを全部弾いていたそうですね。

沼尻 伝説というより便利屋さんでしょうか。朝礼で校歌の伴奏をしたり、学芸会でも劇の音楽を弾きました。でも、少し不満もあって、伴奏をしていると劇に出られないわけです。ですが、今になって思うと伴奏を通じて劇全体に目を向けられたのはいい経験だったかもしれません。本番は練習通りにいくとは限らなくて、出遅れる子や、セリフを忘れる子がいます。前奏から弾き直したり、セリフを待ったりと臨機応変な対応が身に付きました。

河村 幼い頃の印象に残る音楽体験は、ほかにおありですか。

沼尻 アマチュアオーケストラの三鷹市管弦楽団が親子向けのコンサートを開催していたのでよく行っていました。かかりつけのお医者さんが、奏者として出演していたんです。『手のひらを太陽に』など、幼稚園や学校で普段歌っていた曲を、オーケストラアレンジで伴奏してくれるのがすごく楽しくて。

河村 三鷹で音楽に触れる機会がたくさんあったのですね。

沼尻 そうですね。父も母もクラシックは好きでした。母は地元の合唱団でヘンデルの『メサイア』を日本語で歌っていました。訳が文語調で私には歌詞の意味がよく分かりませんでしたが、それでも楽しく聴いていました。

河村 それは良い体験ですね。考えてみれば、三鷹は音楽にしても、スポーツにしても、世代を超えて受け継がれている地域です。長い時がたち、かつての子どもたちが大人になって、才能が開花していると感じています。

自由が生み出すミタカ・フィルの「音」
河村 トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア(以下、ミタカ・フィル)は、今年で設立25周年を迎えます。沼尻さんには設立から関わっていただきましたね。

沼尻 1995年に芸術文化センターが開館したときに、コンサートホールを拠点とする地域密着のオーケストラが欲しいということで、三鷹市出身の私に協力依頼があったんです。そこで、室内楽のコンサートにも出演してもらえる腕の良い人たちを集めました。最初の1年間はモーツァルトを中心としたシリーズを行うことになったので、トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズと名付けたんです。モーツァルトはオペラからソロまでさまざまな種類の作品を書いているので、にぎやかなオープニングとなりました。

河村 20周年を機に名称をミタカ・フィルにしたわけですが、25年の歳月が生み出したものは、一言で言うと何でしょう。

沼尻 コンサートは年5回程度に限られるのに「これがミタカ・フィルの音!」と言えるサウンドを持っています。特別な奏法を取り入れているわけではないのに、ある種の自由さを持った独特のスタイルがあるんです。オーケストラというのは、いろいろな考えを持った奏者が一緒に演奏することで、音に彩りや奥行きが生まれます。指揮者の考えだけを押し付けるのではなく、高い技術を持った奏者がそれぞれの想いを音にして、全員で音楽を同じ方向に進めていることもミタカ・フィルのサウンドを生み出している要素の一つでしょう。

子どもの才能が開花するMJOの環境
河村 私が沼尻さんと初めて会ったのは、三鷹市スポーツと文化財団の前身である三鷹市芸術文化振興財団で理事長を務めていた時期でしたね。文化には、音楽や美術、演劇などがありますが、実は私は音楽が一番苦手です。だからこそ、沼尻さんに委ねて自由にやっていただいたことを覚えています。

沼尻 本当に自由にやらせていただきました。そして、このホールの運営で素晴らしいのはオリジナルのコンテンツが充実していることです。多くのホールは既にパッケージ化された企画を購入して、コンサートを開催します。それだとどこの都市でも似たような企画になってしまう。チェーンのお店が軒を連ね、全国どこの街でも似たような風景になってしまうのと同じです。幸い、三鷹はその対極にいるので発信力がある。全国的にも注目度の高いホールですね。

河村 三鷹のオリジナルの最たるものが、みたかジュニア・オーケストラ(以下、MJO)ということだと思います。

沼尻 MJOという才能を開花させる環境があって、そこで演奏していた子が音楽大学に進学し、ミタカ・フィルで演奏するようになるなど、良い循環が生まれていますね。

河村 そこが三鷹の独自性であり、追及すべき部分だと思います。美術でも、演劇でも、いかに独自性を追及していくかが、三鷹市スポーツと文化財団のテーマだと思います。沼尻さんには、そのDNAを作っていただいて、本当に感謝しています。

作品の背景を学ぶことでクラシックは面白くなる
河村 ところで、クラシックを聴くうえでのアドバイスはありますか。

沼尻 自分から学ぶとさらに面白くなります。作品の時代背景や楽器のこと、演奏者のことなど何でもいいんです。古典文学や落語でも、作品の背景が分からないと理解しにくいことがありますよね。クラシックでも「モーツァルトってどんな時代に生きたのだろう」と、ちょっと調べるだけで楽しみは広がります。また、演奏はなるべく生で聴いていただきたいですね。一回だけの緊張感や、奏者がそこにいる空気感をぜひ味わってください。

河村 お子さんがクラシックを楽しむにはどうすればよいでしょうか。

沼尻 食育のように保護者が手引きをしてあげることも大切です。家庭でクラシックをかけるだけでもいいんです。音楽に触れられる環境を作ること、そして食わず嫌いの子にはきちんと教えてあげることです。ニンジンが苦手であれば、細かく刻んでハンバーグに入れるでしょう。そういう努力をクラシックに関してもしていただけたらいいと思います。

三鷹らしさを大切にした文化活動を目指して
河村 2020年の抱負をお聞かせください。

沼尻 3月14日に開催するミタカ・フィルの定期演奏会では、ピアニストの横山幸雄さんとハープ奏者の吉野直子さんが出演されます。指揮は私です。三鷹市にゆかりのある3人が出演するコンサートにぜひ、市民のみなさんに来ていただきたいですね。このホールは音響も良いし、客席とステージが近いので、曲の仕組みがよく分かって面白く聴けると思います。

河村 ミタカ・フィルについてはいかがですか。

沼尻 とにかく活動を続けていくことが大切です。オーケストラはある程度の予算がないと運営できません。何事も損得勘定で考えがちな世の中ですが、それだけだと音楽は一番後回しにされてしまいます。音楽は人間らしい心の表れです。その大切さを家庭、学校、行政が一体となって伝えていくことができたら素晴らしいと思います。

河村 三鷹市では全ての小・中学校にプロの音楽家が訪れて演奏をしています。沼尻さんが三鷹で続けてこられた活動が地域の教育でも大きな役割を果たしています。市では学校を核とした地域づくり(スクール・コミュニティ)を掲げていますが、何よりも身近にオーケストラがあることが素晴らしい。音楽を身近なものとして暮らしに取り入れ、ミタカ・フィルやMJOの演奏を聴きに芸術文化センターを訪れる。それが「三鷹スタイル」として浸透していってほしいと思います。これからも三鷹らしさを大切にした文化活動を育んでいきたいので、ぜひご協力ください。

沼尻 はい。こちらこそよろしくお願いします。

河村孝市長 Takashi Kawamura
 昭和29(1954)年、静岡市生まれ、65歳。昭和52(1977)年、早稲田大学卒業後、三鷹市に就職。企画部長として、都立井の頭恩賜公園への三鷹の森ジブリ美術館の誘致を実現。平成15(2003)年から3期12年にわたり助役・副市長として市政を支える。(株)まちづくり三鷹代表取締役会長、(公財)三鷹市芸術文化振興財団理事長、(公財)三鷹国際交流協会理事長などを歴任し、昨年4月に第7代三鷹市長に就任(現在1期目)。好きな言葉は「持続する志」。趣味は読書と散歩。読書の好みは純文学から漫画まで幅広く、最近は今村夏子さんの芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』や業界関係者の評判も高い野球漫画『グラゼニ』などを愛読。早稲田大学在学中に始めた空手は黒帯。

沼尻竜典さん  Ryusuke Numajiri
 びわ湖ホール芸術監督、トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア音楽監督。ブザンソン国際指揮者コンクール優勝。以来、ロンドン響、モントリオール響、ベルリン・ドイツ響、フランス放送フィル、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ響、シドニー響等各国のオーケストラを指揮。国内ではNHK交響楽団を指揮してのデビュー以来、数々のオーケストラのポストを歴任。オペラ指揮者としてはケルン、ミュンヘン、ベルリン、バーゼル、シドニー等の歌劇場にも客演を重ね、リューベック歌劇場音楽総監督時代には数々のプロダクションを成功に導いた。2014年にはオペラ《竹取物語》を作曲・世界初演、国内外で再演されている。2017年紫綬褒章受章。

作品情報
 沼尻竜典さんの指揮によるミタカ・フィルの最新CD。
朝日新聞(2018年8月20日)推薦盤
『モーツァルト:交響曲 第40番 K.550、ピアノ協奏曲 第18番 K.456』

近日開催のコンサート
トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア 第80回定期演奏会

 チケットの購入方法など詳しくは8面をご覧ください。

※写真はPDFをご覧ください。


※詳細はPDFをご覧ください。


市外局番「0422」は省略。 【主】主催者 【日】日時・期間 【人】対象・定員 【所】場所・会場 【講】講師 【¥】費用 【物】持ち物 【申】申込方法 【問】問い合わせ 【保育】保育あり 【手話】手話・要約筆記あり

▲このページの先頭へ

目次ページに戻る

トップページへ戻る


   
三鷹市役所 〒181-8555 東京都三鷹市野崎一丁目1番1号 電話:0422-45-1151(代表) 市役所へのアクセス

開庁時間:月曜〜金曜日の午前8時30分〜午後5時(祝日、12月29日〜1月3日を除く)