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第38回太宰治賞が野々井透さんの『棕櫚を燃やす』に決まりました

三鷹市と株式会社筑摩書房との共同主催で復活後24回目となる「太宰治賞」の最終選考委員会が5月11日に開催され、選考委員の荒川洋治さん、奥泉光さん、中島京子さん、津村記久子さんにより、1478編の応募作品の中から、第38回太宰治賞が野々井 透(ののい・とう)さん(筆名)の『棕櫚を燃やす』(しゅろをもやす)に決まりました。

写真:第38回太宰治賞受賞者の野々井 透さん
第38回太宰治賞受賞者の野々井 透さん

受賞作「棕櫚を燃やす」

なにかが父に巣くって、父の体をゆっくりと壊してゆく――。34歳の春野と、5歳年下の妹・澄香と父は、3人で暮らしている。「水越しにぼやけた地上をみる」ように他人と距離をとって生きる春野と、何事にも納得したい澄香、すべてをさもありなんと受け入れる父は、唯一の心地よい関係を育ててきた。その父の体内に何かが棲み、余命1年であるという。春野と澄香は毎日をあまさず暮らそうと約束する。

父と浴びる春の陽射し、玄関に脱ぎ捨てられた父の靴下、明け方の高速道路のドライブ、3人で囲うすき焼き鍋……。穏やかな日々の一方で、膨張し姿形を変え、「ごめんね」が増えていく父を春野は疎ましくも感じ、むるむるとしたものが体をめぐる。あまさず暮らすとはどういうことだろうか。

過ぎていく日の愛おしさ、どうしようもなく変わってしまう関係とその戸惑い。喪失へと向かう日々を、繊細に美しく描き出す。

選考委員の評

選考委員を代表して、中島京子さんは「受賞作は文体・構成といった小説としての完成度が高かった。病に侵され、余命少ない父を持つ家族が、残り少ない時間を大切に暮らしている様子を丁寧に描写している点を評価しました。最終候補4作に共通していたのは、身の回りの手の届く範囲の出来事を描いた点でしたが、本作はそこだけに収まらず、外に出ていくようなところが描かれており、その点が読者に感動を与えるのではないかと感じました」と述べました。

受賞者の野々井 透さん

受賞した野々井透さんは、東京都出身・神奈川県在住の42歳。受賞の知らせを受け、「三鷹市が共催の、歴史ある太宰治賞を受賞できたことにただただ感謝と感動の気持ちです。これからも日一日、努力してまいります」と喜びを語りました。

第38回太宰治賞最終候補作品

受賞作および最終候補作のすべてと選考委員の選評などを収録した『太宰治賞2022』は、筑摩書房から6月下旬発売予定です。

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太宰治賞