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第35回太宰治賞が阿佐元明さんの「色彩」に決まりました

更新日:2019年5月8日

 三鷹市と筑摩書房の共同主催による復活後21回目の「太宰治賞」の最終選考委員会が、令和元年5月7日みたか井心亭(せいしんてい)で開催されました。選考委員の荒川洋治さん、奥泉光さん、中島京子さん、津村記久子さんの厳正な審査により、1,201編の応募作品の中から阿佐元明(あさ・もとあき)さんの「色彩」に決まりました。

写真:第35回太宰治賞受賞者の阿佐元明さん
第35回太宰治賞受賞者の阿佐元明さん

受賞者の阿佐元明さん

 受賞した阿佐元明さんは、東京都出身・在住の44歳。
 受賞の知らせを受け、「大変光栄です。プレッシャーも感じますが、この賞に値する作品を書き続けていきたいと思います」と喜びを語りました。


受賞作「色彩」

 眼を怪我したことで、プロボクサーの道をあきらめた千秋は、幼馴染の高俊の紹介で彼が働く塗装会社に就職。いまは塗装の仕事にも馴れ、懐の深い親方と高俊の3人での仕事はそれなりに充実し、もうすぐ子供も生まれる。そんなところへ親方が少し仕事を広げるため、新しく人を雇うこととなる。入ってきた新人は美術の専門学校を出たが、画家への道をあきらめ、仕事を求めてきた若い加賀君。真面目で気の弱そうな新人だったが、塗装の仕事に関しては初めてとは思えないほど覚えが早い。意外な新人の才能に喜ぶ親方と高俊。初めて年下の後輩が出来た高俊は毎日のように彼を飲みに連れ歩く。酒には弱いが仕事は真面目で、妊娠中の千秋の妻も含め周囲に好意的に見守られる加賀君に対して千秋だけは違和感をぬぐえない。嫉妬とも違う感情を抱えながら日々の仕事をこなす千秋。加賀君の怪我、工場の壁への絵を描く大きな仕事を経て、突然、加賀君が仕事をやめて実家の果樹園を継ぐと言い出す。彼が去り、自分の持っていた違和感の正体に気が付いた千秋は自分がやり残していたことに向かう。塗装業で働く人々の仕事と日常を繊細な心理描写と共にリアルに描いた作品。

選考委員の評

 選考委員の荒川洋治さんは「ささいな人の営みを、丹念にユーモアを交えながら描けている。普通すぎる話をなるほどと思わせる、『不思議な重みを持った軽い小説』という印象。議論もあったが、最終的に本作品が選ばれて良かったと思う」と評しました。
 奥泉光さんは「他の作品と比べて、小説の良さ、可能性を感じた。『本作品に賭けてみようじゃないか』という気持ち」と選評を述べました。
 中島京子さんは「淡々とした中にある挫折と向き合って生きる人物たちの感情の変化が、繊細かつ丁寧に描かれているところを評価し、強く推薦した。読後感、読み心地の良い小説である」と選評を述べました。
 津村記久子さんは「他の作品に比べて『好かれた』という印象。普通のことを普通に描き、一つひとつ積み上げる感じが評価につながった。次の作品も読んでみたいと感じさせる」と述べました。

第35回太宰治賞贈呈式

 令和元年6月17日に如水会館(千代田区)で行われ、正賞の記念品と副賞100万円が贈られます。
 なお、受賞作および最終候補作のすべてと選考委員の選評などを収録した「太宰治賞2019」を、筑摩書房から発売予定です。

【第35回太宰治賞最終候補作品】

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