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【星と森と絵本の家】国立天文台長と三鷹市長の開館記念日対談

作成・発信部署:スポーツと文化部 芸術文化課

公開日:2020年8月26日 最終更新日:2020年8月26日

画像:常田台長と河村市長が対談している様子(拡大画像へのリンク)

河村市長(左)と常田台長(右)

(画像クリックで拡大 25KB)

本の世界から、宇宙のいのちに思いをはせる

三鷹市星と森と絵本の家 開館記念日対談
常田佐久 国立天文台長
河村孝 三鷹市長

令和2年7月7日、星と森と絵本の家は12年目の開館記念日を迎えました。今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、天文台長によるおはなし会をはじめ、例年実施している記念イベントは行いませんでしたが、台長に新企画展示「宇宙のいのち」をご覧いただき、展示の感想や絵本の家に寄せる思いなどを三鷹市長と語り合っていただきました。

宙も、絵本も、私たちの想像力をかき立てる

河村
7月7日七夕の今日は星と森と絵本の家のお誕生日ということで、国立天文台の常田佐久台長と対談させていただくことになりました。台長、本日はありがとうございます。よろしくお願いいたします。

常田
こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。

河村
広大な宇宙について研究する国立天文台の中に、この星と森と絵本の家があるわけですが、未知なる宇宙と絵本、この2つの世界は実はとても近しいのではないかと思うんですよ。

常田
絵本は広くて深い物語への入口ですね。確かに宇宙と似ているかもしれません。

河村
はい。どちらも人間の想像力をかき立てる世界です。そんな思いもあって、施設の名前を考える時に「星」を入れました。天文台の豊かな森に抱かれたこの空間で、星や絵本の想像の世界に思いをはせる。そんな願いから、「星」「森」「絵本」「家」の言葉を並べました。

常田
絵本の家として復元されたこの建物は、天文台の官舎として大正時代に建てられ、かつては天文台長も住んでいたことがある家です。「星」「森」「絵本」という一見結びつかないようなキーワードが、見事にこの「家」の中に納まっているという気がします。

河村
縁側や和室がある木造の日本家屋が、昔ながらの趣を残していて実にいい味を出しているんですよね。三鷹市では平成18年度から「みたか・子どもと絵本プロジェクト」がスタートし、その拠点施設を作りたいという構想がありました。国立天文台の縣秀彦先生に検討に加わっていただく中で、この建物を活用するというアイデアが出て、お話が進みました。

常田
職業柄、世界中の天文台に行っていますが、天文台のすぐそばにこうした温かみのある付帯施設を持っている例は見たことがないですね。しかもそれが絵本をテーマにした施設で、小さな子どもたちがやってくるというのも珍しい。想像したことを実証していくのが科学の1つの側面ですが、まさに想像の芽がつまった場所が星と森と絵本の家ではないかと感じます。企画展示を見せていただきましたが、「宇宙人っているのかな?」という想像と疑問を取り上げている。地球外生命については、今天文学者たちの最大の関心事であり、子どもたちが思い描く想像の世界と天文学の最先端の世界がリンクしているわけですね。

 

画像:展示室を体験している様子(拡大画像へのリンク)

対談前に新企画展示「宇宙のいのち」を体験していただきました

(画像クリックで拡大 38KB)

生命の多様性を考えれば宇宙にも「いのち」がある

河村 
企画展示のお話が出ましたが、星と森と絵本の家では毎年、天文への興味を広げる体験型の企画展示を行っています。今年のテーマは「宇宙のいのち」。地球のさまざまな「いのち」から、宇宙の「いのち」へと広がっていく内容です。個人的には、地上最強の生物と言われるクマムシの印象が強烈でした。

常田 
「極限生物パズル」というコーナーでしたね。クマムシには「宇宙でもすめる!?」というキャプションが付いていましたが、宇宙空間に10日間放しても生存が確認されたという生物です。高い、低い、暑い、寒いといった極限に生息する生物、深海に暮らす異形の魚など、生命の多様性をうまく表現している展示だと思いました。

河村 
絵本もとても充実していますが、ここを立ち上げる当初は、正直、宇宙や自然科学に関する絵本がこんなにあるとは思いませんでした。

常田 
展示を見て、絵本を開き、そこから想像を広げていくと、宇宙にある地球以外の惑星にも「こんな生物がいるかもしれない…」という思いにつながっていきますね。展示にそうした導線が敷かれていることも素晴らしい。私たちが若い頃は、惑星を持っているのは太陽系だけだと考えられていて、どこか頭のすみで、人類が住む太陽系は大宇宙の中でスペシャルなものだと無意識に思っていたようなところがあります。

河村 
今の子どもたちは、地球と同じような惑星はどこにあるのだろう、といった気持ちで夜空を見上げるのでしょうね。

常田 
国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡などによって、夜空に見える星の多くは惑星を持っていることが観測されています。そしてそれらの惑星の中には、地球と似た「生物が存在できるハビタブルゾーン(※1)」に位置する星があるのもわかっています。

河村 
それはどのような観測によってわかったのですか?

常田 
これは、実はすごく簡単なんです。太陽のような星があって、その手前を惑星が通過すると星の光を遮り、ほんの少しだけ暗くなります。この影を観測することで惑星を発見して、周期や性質を分析します。理屈は簡単なのですが観測精度が上がったために、多くの惑星が発見されるようになりました。現在ハワイで進めている「国立天文台TMTプロジェクト(※2)」の巨大な望遠鏡が完成すると、その惑星に森があるのか?海があるのか?ということも観測できるようになります。そこからさらに進めば、私たちのような生命体が存在できる環境があるかどうかも明らかになってくることでしょう。

河村 
そのご説明をうかがうと、星と森と絵本の家の企画展示は科学的に非常にタイムリーな内容ですね。これも国立天文台の中にある施設だからこそ、発想された企画だと思います。

常田 
天文台の中には、「アストロバイオロジーセンター」もあります。アストロバイオロジーとは、宇宙を舞台に生命の存在を探査し、地球だけにとらわれない生命の起源や進化を議論する学問です。アストロバイオロジーセンターがアストロバイオロジーの先端を行く研究機関だとしたら、アストロバイオロジーを子どもにもわかるようやさしくかみ砕いて紹介しているのが星と森と絵本の家の企画展示とも言えますね。

河村 
子どもたちが星と森と絵本の家を出発点として、宇宙や生物といった自然科学の世界に目を開き、豊かな想像力を育み、それが将来の夢や目標につながっていけばよいなと思います。

 

宇宙人はいる!?それを実証するのが最先端の天文学

河村 
ところで、台長ご自身は宇宙人はいると思いますか?

常田 
いますね。

河村 
そうですか! どの辺りにいるのでしょう?

常田 
文明があれば必ず電波を出しているはずです。大きなアンテナを向ければそこの文明からの信号をキャッチできるのではないかという想定のもと、これまで何回か試みられていますが見つかっていません。今までは闇雲にそれを行っていましたが、今後の研究が進みハビタブルゾーンに位置する地球のような惑星にピンポイントにアンテナを向けて行えば、異星の文明からの信号を受信できるのではないかと期待しています。

河村 
交信できる日はきますか?

常田 
遠く離れており、交信は難しいかもしれません。市長は宇宙人はいると思いますか?

河村 
地球人も宇宙人の一種、と思っています(笑)。科学的根拠は何もありませんが、何となくいると思います。

常田 
観測や研究が進んで、天文学者が「宇宙人がいる」と物的証拠を示したとしたら、どのように感じられるでしょう。

河村 
すごくびっくりすると思います。例え細菌やアメーバーのようなものしか発見されなかったとしても、それだけでもびっくりしますし想像がふくらみます。地球以外にも地球と同じような環境があるとすると、宇宙の中の地球ということが意識されます。そうなると地球の美しさや平和の大切さを強く感じるなど、別のインパクトもあると思います。

常田 
地球外に生命の兆候があることがわかった時に、心理的にどんな影響があるのかについては、私も興味があるところなんです。驚きは驚きでも、それで終わってしまうのか。あるいは何か新しい今までにない文化的な影響が起こってくるのか。人々の心がどう変わるのかという…。

河村 
15世紀半ばから約200年続いた大航海時代に、地球は丸いということが実証されたわけです。その驚きは人々の意識に大きな影響を及ぼしたと思うんですよ。それが具体的に文学や芸術にどう反映されているかは別として、科学の発見が人々の常識を変えていった。今地球温暖化の問題など、地球の限界というようなことが意識され始めています。宇宙飛行士のガガーリンが「地球は青かった」と名言を残しましたが、その美しい地球の自然環境をどう守っていくか。宇宙から見た地球という視点を持つことで、それはさらに深まるのではないかと思うんですね。

常田 
同感です。地球外にも生命がある。となると、地球と地球で行動する自分たちを客観化できるのではないかと思います。その時に私たちの文化がどう変わるのか。生きている間にそうした時代がくることを期待しています。

河村 
こうしたお話ができて、今日は本当に楽しかったです。三鷹市にとって国立天文台というのは大きな財産であると、改めて実感しました。そうした意識を持って、これからのまちづくりも進めていきたと思っています。

常田 
「天文台のあるまち三鷹」というキャッチフレーズ、大変ありがたく思っております。星と森と絵本の家のほか、みたか太陽系ウォークや三鷹ネットワーク大学での天文学関連の講座など、三鷹市と国立天文台はユニークな連携を行ってきました。今後もさらに発展させていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

河村 
ありがとうございました。
 

用語解説

(※1)ハビタブルゾーン
星のまわりの生命が生存するのに適した領域のこと。惑星の表面に水が液体として存在できる軌道の範囲を表す。
(※2)国立天文台TMTプロジェクト
口径30メートルの次世代超大型天体望遠鏡TMT(Thirty Meter Telescope)を、日本を含む国際協力で建設する計画。

プロフィール

常田 佐久(つねた さく)国立天文台長
1954年、東京都生まれ。太陽研究の業績により、日本天文学会林忠四郎賞、日本学士院賞などを受賞。国立天文台先端技術センター長、国立天文台ひので科学プロジェクト長、宇宙航空研究開発機構理事・宇宙科学研究所長などを歴任し、2018年4月より自然科学研究機構国立天文台長に就任。
河村 孝(かわむら たかし)三鷹市長
1954年、静岡市生まれ。1977年、三鷹市に就職。2003年から312年にわたり助役・副市長として市政を支える。(株)まちづくり三鷹代表取締役会長、(公財)三鷹市芸術文化振興財団理事長、(公財)三鷹国際交流協会理事長などを歴任し、20194月より第7代三鷹市長に就任。

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スポーツと文化部 芸術文化課 星と森と絵本の家
〒181-0015 東京都三鷹市大沢二丁目21番3号(国立天文台内)
電話:0422-39-3401 
ファクス:0422-39-3402

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