ここから本文です
第39回 太宰治賞が決定しました
作成・発信部署:スポーツと文化部 芸術文化課
公開日:2023年5月12日 最終更新日:2023年5月15日
第39回太宰治賞が西村亨さん(筆名)の「自分以外全員他人」に決まりました
三鷹市と株式会社筑摩書房との共同主催で復活後25回目となる「太宰治賞」の最終選考委員会が令和5年5月11日に開催され、選考委員の荒川洋治さん、奥泉光さん、中島京子さん、津村記久子さんにより、1,246編の応募作品の中から、第39回太宰治賞が西村亨(にしむら・りょう)さん(筆名)の「自分以外全員他人」(じぶんいがいぜんいんたにん)に決まりました。
受賞作「自分以外全員他人」あらすじ
あと1年半、あと1年半待てば俺は自殺できる――。マッサージ業界でフリーランスとして働く柳田譲。不安定な日々を過ごし、生きる支えも希望もなく、45歳が限界だと思っていた男は自らに死亡保険をかけ、自殺でも保険金が下りるようになる日を待っていた。人とうまく関係を築くことができず、母とも母の再婚相手とも分かり合うことはないまま家を出て、職場の同僚や客ともおおよそ心地の良い会話はできない。鬱で退職した元同僚の真似をして始めたサイクリングだけが唯一の心のよりどころだったが、逆走する自転車や幅寄せしてくる車を見かけるたびに腹を立て、気が狂いそうになるのを必死で抑える日々。極めつけは入居しているマンションの駐輪場での置き場所トラブル。自分の魂そのものになった自転車を屋根付きの駐輪場に止めたい、それだけだったのに、自分はなにも悪いことをしていないはずなのに。日常が怒りに染まっていく中年の破滅の物語。
選評
選考委員 荒川洋治さんより
みんなが神経を尖らせているこの時代の中で生きるしかない個人の切実さがよく表現されており、かなり共感を呼ぶと思う。
選考委員 奥泉光さんより
ここ数年の選考の中では、最終候補作4作いずれも力量を感じた。今回受賞しなかった作者も今後に期待できると思う。
選考委員 中島京子さんより
マスク、ワクチンといったコロナ禍の感覚の描写が巧みだった。主人公の感覚は過激とも取れるが、私たちの感覚の延長線上にある怒りや苛立ちが膨らんでいく感じがよく描けていた。
選考委員 津村記久子さんより
身につまされる内容。生活の苛立ちの細部を描けており、多くの人が共感し、救われるのではないかと感じた。
受賞者の西村亨さん
受賞した西村亨さんは、鹿児島県出身の46歳。
受賞の知らせを受けコメントをいただきました。
「人間失格に救われた18歳のあの日から、むしろ出会わなければもっと楽に生きれたのかなと悔やんだこともありましたが、最後の最後にまた救われました」
受賞作決定までの流れ
今回の受賞作は、応募作品総数1,246篇(前回1,478篇)の中から4篇を最終候補作とし、令和5年5月11日の選考委員会による選考の結果、決定されたものです。
冊子「太宰治賞2023」
受賞作及び最終候補3作品と選考委員の選評などを収録した「太宰治賞2023」は、筑摩書房から発売予定です(6月下旬発売予定)。
第39回 太宰治賞 最終候補作品
- 北野 解 「コスメティック・エディション」
- 西井 貴恒 「魚の名前は0120」
- 村雲 菜月 「肖像のすみか」
- 西村 亨 「自分以外全員他人」
- 太宰治賞とは
- 昭和39年に筑摩書房が創設した小説の公募新人賞で、吉村昭をはじめ、加賀乙彦、金井美恵子、宮尾登美子、宮本輝など多くの著名作家を世に輩出してきました。昭和53年の第14回を最後に中断していましたが、三鷹ゆかりの文人たちの文化の薫りを継承したいと考えていた三鷹市が、三鷹になじみの深い太宰治の没後50年(平成10年)を機に、筑摩書房に呼び掛け、共同主催の形で復活しました。
その後も、芥川賞を受賞した津村記久子さん、今村夏子さん、大江健三郎賞を受賞した岩城けいさんなど、有望な若手作家を輩出しています。
このページの作成・発信部署
〒181-8555 東京都三鷹市野崎一丁目1番1号
電話:0422-29-9861
ファクス:0422-29-9040